クラクフ八日目、森へ行きましょう、そしてヴィスワヴァ・シンボルスカさん Wisława Szymborska |
今日も抜けるような快晴。このところの散策で、頭のてっぺんも日焼けするようになってきた。いつものように旧市街に近づくと、今日はトランペットの混じった民族音楽が聞こえてくる。中央広場に向かう路上でポーランドの民族衣装を纏った4人組が耳慣れた調べを奏でている。演奏が終わった後、トランペットの方に聞いてみると、この曲はポーランドの、クラクフの歴史ある曲だという。これがポーランド民謡だとは知らなかった。しかし、歌詞が出てこない。それが出てこないと調べようがない。午前中はいろいろな言葉を組み合わせては何とか記憶を引っ張り出そうとしていた。そして、お昼前に 「森へ行きましょう 娘さん (あっはーはーは)」 がやっと出てきた。
帰ってネットで調べてみると、確かにポーランド民謡となっている。その昔歌ったことのある曲を本場で聞くことになろうとは、夢にも思わなかった。現世から離れていると、世に出回っている曲がすぐに消え去る危ういものに聞こえ、次第に魅力を感じなくなる。逆に、これまでは過去に埋もれていて価値をほとんど見い出せなかったような曲が存在感をもって聞こえてくる。不思議である。
今朝は二つの雑文のための空想を羽ばたかせようとして街に出た。仕事をしているとこういう時間を取ることが難しいので、今では苦しいながら楽しい時間になっている。ヴァカンスの地で仕事紛いのことをしようという気分になったようだ。そのため陽の当たらないカフェに入っていた。今までも気づいてはいたが、今日は特に町中に響き渡るヒズメの音が印象的に聞こえた。固い路面から発するその音は、心を落ち着かせると同時に気持ちを昂ぶらせる不思議な力を持っている。
4時間ほどの時が流れただろうか。
陽も風もない環境なので、普段よりは集中できたようである。
何とか一つの方はまとまりがついてきた。
今日は新たにヴィスワヴァ・シンボルスカさん (Wisława Szymborska; 1923年7月2日生) の詩集を持って出た。1996年にノーベル賞をもらっている女性詩人で、クラクフで教育を受け現在もこの地に住んでいるという85歳。空想が途切れた時にページを繰っていた。この2日間に読んだ詩集にはほとんど反応することがなかったが、今日はこんな言葉が入ってきていた。
例えば、"Nothing twice" という詩の中の数節。
Nothing can ever happen twice.
In consequence, the sorry fact is
that we arrive here improvised
and leave without the chance to practice.
...
No day copies yesterday,
no two nights will teach what bliss is
in precisely the same way,
with exactly the same kisses.
...
Why do we treat the fleeting day
with so much needless fear and sorrow?
It's in its nature not to stay:
Today is always gone tomorrow.
その時、小さな子供を抱えた物乞いの女性が入ってきた。
女店主は追い返そうと諭すように話しかけている。
物乞いの女性は帰ろうとしてカウンターにあったオレンジの籠に気づき、指さして何か言っている。
女店主は何も言わずに一つ取り出して渡していていた。
受け取った女性はそのオレンジを子供に差出しながら、ありがたそうに店を出て行った。
力のない声を出す小さな女性だった。
さらに、シンボルスカさんの詩に "Innocence" というのがあった。
これは先日のロジェヴィッチさんの続きだろうか。
Conceived on a mattress made of human hair.
Gerda. Erika. Maybe Margarete.
She doesn't know, no, not a thing about it.
This kind of knowledge isn't suited
to being passed on or absorbed.
The Greek Furies were too righteous.
Their birdy excess would rub us the wrong way.
Irma. Brigitte. Maybe Frederika.
She's twenty-two, perhaps a little older.
She knows the three languages that all travellers need.
The company she works for plans to export
the finest mattresses, synthetic fiber only.
Trade brings nations closer.
Berta. Ulrike. Maybe Hildegard.
Not beautiful perhaps, but tall and slim.
Cheeks, neck, breast, thighs, belly
in full bloom now, shiny and new.
Blissfully barefoot on Europe's beaches,
she unbraids her bright hair, right down to her knees.
My advice: don't cut it (her hairdresser says)
once you have, it'll never grow back so thick.
Trust me.
It's been proved
tausend- und tausendmal.