メアリー・ミッジリーという哲学者、そしてジェームズ・ラブロックさん Mary Midgley et James Lovelock |
先日のカナダで仕入れた本をぱらぱらとやっている時、御歳91歳になるイギリスはニューキャッスルの哲学者を見つける。
メアリー・ミッジリー(Mary Midgley, born September 13, 1919)
彼女は1989-1990年のギフォード・レクチャー(Gifford Lectures)をやり、その本が1992年に出版されている。
Science as Salvation: A Modern Myth and its Meaning (Routledge, 1992)
この副題にあるように、彼女は科学を現代の神話であると捉えている。ただ、あり得ない話と看做される一般的な意味での神話ではなく、人間の想像力の成せる技、ドラマ、魅せられる夢という意味を込めてこの言葉を用いたようだ。17世紀に近代科学が生まれ、そこで培われた考え方が無意識のうちにわれわれの思考に入り込み、問題を引き起こしている。その考え方の大きなものが、この世界はある秩序の下にあり、科学はその秩序を最終的にはすべて明らかにしてわれわれの疑問に答えてくれるという希望的な見方であり、人間を最上位に置く神話だろう。そこから周囲の手軽に利用できるものはすべて利用するという哲学によって、あるいは無意識のうちに進んできたのが、現代の問題の根底にあると見ている。また、当時の科学には自然を女性に見立て(Mother Natureという言葉もある)、自然を追いまわし、その秘密を暴くという男性的な営みの側面があったという初めて聞くお話も出ていた。
すべての思考体系には、それを推し進める神話や想像から生まれた視点が隠されている。したがって、科学者はその点に注意を払う必要がある。同時に、科学には新しい神話が必要で、その一つとしてジェームズ・ラブロックさんのガイア理論を上げている。この理論の素晴らしいところは、異なる領域、ある場合には対立する学問を統合するそのやり方と、自然が生き生きとした創造的存在であるという考え方を蘇らせたことである。昨日のお話からも、確かに2000年ほど前にはこのような考え方があったことを考えると、17世紀以降の流れがわれわれの視界を狭めていたことがわかる。
現代の科学者に対する危惧として、余りにも専門性が高まり、広い視点からものを見ることができなくなっていることをあげている。哲学や歴史を科学と同時に学ぶこと、科学と他の文化を分断しないこと、これが大切になるが、視野の狭い科学者を作り出している私の国の教育は酷い、と言っている。
こちらで彼女の矍鑠とした話し振りを見ることができる。
今年9月の最新刊出版を記念した講演のようで、91歳のお姿になる。
The Solitary Self: Darwin and the Selfish Gene (Acumen, 23 Sep 2010)
ガイアのお話が昨日と今日出てきたところで、同じく91歳でお元気なジェームズ・ラブロック(James Lovelock, born 26 July 1919)のお話を聞いてみたい(映像はほぼ90歳の時のもので、以前にも取り上げている)。謙虚で誠実なお人柄が滲み出ているインタビューだ。また、ホストのデビッド・フロストさんが懐かしい。ウォーターゲートでニクソンをインタビューして一躍世界的になった方。当時アメリカで、テレビに齧りついてスリリングなやり取りを見ていたことを思い出す。その彼ももう71歳。先日の吉田拓郎の言ではないが、相当丸くなった印象がある。