モンペリエ3日目 |

会の二日目。初日は午後からで、基調講演の後、3つに別れて研究発表がされた。発表者はテーズの学生さんや若手から中堅の研究者が大部分。初めての領域になるので、どのような切り口で問題に向かっているのかに注目しながら発表を聞いていた。この日は朝に基調講演があり、その後に3つの分科会。デジュネの後にはやはり3つの分科会があり、その後に Table ronde と言われる討論の場があった。研究の内容については改めてまとめることにしたい。ここではデジュネの時に一緒になったリヨン第一大学クロード・ベルナールのジェローム・ゴフェットさんとの思いもしなかったお話を簡単に振り返ってみたい。

午前の基調講演で座長をされ、じっくり話し込むところを見ていので、ゆっくり考えるタイプではないかと想像していた。実際に話してみてその印象はさらに確かなものになった。人の話を聞いた後、時間をたっぷり取り、こちらの興味を引きそうな話題とともに返してくれる。思慮深さのようなものを感じる。話の中で日本文化に強い興味を持っていることを知る。彼の友人には彼以上の日本びいきが多いとのこと。
彼は医学部学生に講義をしているが、その中に3時間の特別講義があるという。その時間には3時間を僅かに超える黒沢明の「赤ひげ」を見せ、次の週に3時間のディスカッションをするという(今ウィキを読んで、最後のシーンを外国映画でも見たような気がするが、それが何だったのか思い出せない)。原作の山本周五郎 「赤ひげ診療譚」(1958年)が半世紀を経てやーっとフランス語に訳されたと話していた。
Shûgorô Yamamoto "Barberousse" (2009)
文学では他に安部公房、川端康成が上がっていた。また、リヨン第二大学を2年ほど前に退官された人類学者フランソワ・ラプランティーヌさん (François Laplantine) が最近日本に関する本を出したことを教えていただく。
" Tokyo, ville flottante : Scène urbaine, mises en scène " (2010)
それからマンガが盛んに読まれているのは周知の事実だが、彼もその中の一人であることがわかった。私の好きな谷口ジローは最高だと言い、他にも中沢啓治の「はだしのゲン」 ("Gen d'Hiroshima")、それから手塚治虫。特に、仕事柄か「ブラック・ジャック」などは感激して読んだという。アニメでは押井守の「イノセンス」、「GHOST IN THE SHELL」を上げていた。特に後者はデカルトから、、、バークレーに至る哲学が絡んでいるとのこと。どちらも見たことがないので、興味が湧いていた。
専門領域のお話では、enhancement (強化)という概念について疑義を抱いているような印象であった。これには一般的な健康を増進するという面と筋力増強や記憶力増強など、特定の能力を高めようとする面があるとのこと。この問題はいろいろな方が指摘している思われるが、まさしく哲学・倫理の領域になる。健康の定義もはっきりしない状態で何をどのように増強するのだろうか。コマーシャリズムとの結びつきも無視できないだろう。後者に関しては、薬物の他に遺伝子工学の手法を用いる可能性も出てくる。これからも考えていかなければならない問題になりそうである。
フランス文化とアメリカ文化の問題や大学改革の話も出ていた。グローバリゼーションが世界の至るところに広まり、残念だがフランスもその例外ではなくなっているように見えるが、と意見を求めた。彼の考えは、フランスの文化も表層ではアメリカの影響は否定しようがないが、深いところではフランス文化は依然健在で、明らかにこの流れに抗する力を持っているというもの。フランスの芯はしっかりしているし、必要があれば動くことも厭わないというニュアンスがその発言にはあった。ゆっくりと考えている跡が見えるので、体が伴っているのを感じることができる。
ところで、初めての方の場合必ず出る質問、こちらで哲学をやるようになった背景について。いつものように、これまで科学の領域でやってきたことを振り返り、その意味を人間存在の意味と併せて考える第一歩としたいというような答えをした。普段はそこで終わりなのだが、彼は今の段階で人間の生の意味をどのように考えているのかと尋ねてきた。そこで咄嗟にこのように答えていた。人間の生の意味を考え続けることが人間存在の意味ではないかと今のところ考えている、と。これから今の考えがどのように変化していくのかわからない。将来の参考のために現段階の発言を控えておくことにした。
1時間ほどの充実した会話になった。
働きかけなければ、相手から何かが出てくることはないということだろうか。



