「水打って残るいのちと思ひけり」 殿村菟絲子 |

先日メトロで殿村菟絲子さんの句を見て以来、そのフランス語の背後にどんな日本語が隠れているのか気になっていたが、今朝届いた本が私の願いを叶えてくれた。
Du rouge aux lèvres : Haïjins japonaises, anthologie de Dominique Chipot et Makoto Kemmoku (La Table Ronde, 2008)
願った通り、日本語とフランス語が併記されていた。それを見た瞬間、私がぼんやりと描いていた世界とは全く異なる厳しい日本語が立ち上がっていて、背筋が伸びる思いであった。
J'arrose,
pensant pouvoir
vivre encore.
水打って残るいのちと思ひけり 殿村菟絲子
このアンソロジーは表題にもあるように女流俳人の句を集めている。
以下のような方が取り上げられている。
河合智月 (1640?-1718) 古賀まり子 (1924- )
千代尼 (1703-1775) 菖蒲あや (1924-2005)
阿部みどり女 (1886-1980) 橋本美代子 (1925- )
竹下しづの女 (1887-1951) 山田みづえ (1926- )
長谷川かな女 (1887-1969) 岡本眸 (1928- )
杉田久女 (1890-1946) 星野椿 (1930- )
橋本多佳子 (1899-1963) 朝倉和江 (1934-2001)
三橋鷹女 (1899-1972) 宇多喜代子 (1935- )
中村汀女 (1900-1988) 黒田杏子 (1938- )
星野立子 (1903-1984) 大木あまり (1941- )
鈴木真砂女 (1906-2003) 西村和子 (1948- )
細見綾子 (1907-1987) 奥坂まや (1950- )
殿村菟絲子 (1908-2000) 正木ゆう子 (1952- )
石橋秀野 (1909-1947) 片山由美子 (1952- )
中村苑子 (1913-2001) 櫂未知子 (1960- )
桂信子 (1914-2004) 黛まどか (1965- )
高木晴子 (1915-2000) 辻美奈子 (1965- )
野澤節子 (1920-1995) 明隅礼子 (1972- )
寺田京子 (1922-1976) 日下野由季 (1977- )
鷲谷七菜子 (1923- ) 佐藤文香 (1985- )
名前を知っている方は僅か数名にしか過ぎないが、女性ならではの感性が表れている句が多いように感じられる。老いや死に向かい合っているものもある。少し前までは結核が死に至る病だったこともわかる。春らしいものを中心にいくつか味わってみたい。
春の灯にこころおどりて襟かけぬ 杉田久女
Sautant de joie,
je change le col de mon kimono
dans la lumière du printemps.
外にも出よ触るるばかりに春の月 中村汀女
Allons dehors !
Nous pourrions toucher
la lune printanière si brillante.
我此處にあり春の月みそなはせ 星野立子
Je suis ici !
Lune de printemps,
regardez-moi donc.
千年の樹魂の春にめぐり逢ふ 野澤節子
Jour de printemps ―
J'ai touché l'âme de l'arbre
millénaire.
春眠の覚めねば覚めぬままでよし 片山由美子
Premier matin de printemps.
Je n'ai pas envie
de me lever tôt.
千万年後の恋人へダリヤ剪る 三橋鷹女
Je coupe un dahlia
pour mon amoureux... d'ici
dix millions d'années.
水打つや生きる父より亡母恋し 寺田京子
L'arrosage...
Je veux revoir ma mère morte
plutôt que mon père vivant.
病みながら花散るさまを学びをり 殿村菟絲子
Je comprends
qu'une fleur tombe,
en tombant malade.
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(mardi 23 mars 2010)
本日、拙ブログを読んでいただいているYH様から貴重な情報をお寄せいただきました。そのメールによりますと、この句集の編者・訳者をされている Makoto Kemmoku (見目誠)氏は日本在住の俳人で、2004年の段階では県立西宮香風高校の先生をされていた方のようです(神戸新聞の記事)。
それから見目氏はこれまでにも作品を発表されていて、日本のアマゾンでの検索結果はこちらから見ることができます。見目氏と連絡が取れると、上の句集も日本で手に入れることができるかもしれません。
改めてYH様には感謝いたします。


