セミナーを楽しみ、デジュネで科学と哲学を語る |
今日はよい天気だった。先日ネットで見つけたセミナーを聞きに、初めての研究所に向かう。ビルの入口が閉まっているようだったので、正面に回る。こじんまりした病院だが、後ろの方に近代的なビルが建設中であった。この研究所の名前は30年ほど前から知っているので初めてのような気がしない。ボストン時代に一緒だったフランス人JCがここに勤めていたからである。こちらに来てから彼の消息を追っているが、残念ながら未だにわからない。
今日のセミナーは免疫がテーマ。ホストはネッカー小児病院のアンリ・ジョン・ガルションさんで、講師はハイデルベルグにあるドイツ癌研究センターのブルーノ・キュースキーさん。イントロではスライドに出ているハイデルベルク城を指しながら、ここは17世紀にフランスによって破壊されたところで、などとやっている。こういうことを飄々と言う人の雰囲気にはどことなく味がある。本題の方も今乗っているようで、非常に面白い話だった。終わった後に哲学的なものも含めていくつか質問させていただいた。拒否反応を示されるかと思っていたが、予想もしない反応があった。彼はそのことについて考えていて、ドイツ語で書かれたスライドを出して説明してくれたのである。ドイツではそれを使っているのかも知れない。
今こちらで哲学をやっていると自己紹介すると、それはわたしもやりたいことなのだと言って、現代ドイツの哲学者 Peter Sloterdijk (1947-) を紹介してくれた。新しい人の紹介を受ける時はいつも嬉しくなるが、こういう反応はやはりヨーロッパ的と言ってよいのだろうか。アンリ・ジョンさんもこの哲学者についてはよく知っていた。日本語の綴りを調べるためにウィキに行ってみたが、まだ記載がない。日本ではあまり知られていないのかも知れない。ブルーノさんによると、彼の本は表現が難しく読むのが大変だが面白いとのこと。話が長引きそうな様子を見たアンリ・ジョンさんが、一緒にデジュネに行きませんかと誘ってくれる。初対面でこういう反応が出てくるのも嬉しいものだ。遠慮なくご一緒することにした。
レストランに移っても科学のお話が続く。フランスのここ30-40年の移り変わりや科学者の噂話。ここでも取り上げたことのある科学者も俎上に上がる。科学に哲学が必要だと思うかとブルーノさんに聞いてみた。そこから哲学のお話が加わるが、その移行に全く無理がなく、自然に流れて行く。普段から考えているからだろう。こういうところは非常に気持ちが良い。ところで私の質問に対する答えは NO。それは哲学を哲学研究として見ているからではないのかと改めて問う。そうだとしたら、わたしもあまり役に立たないと思っているからだ。もし哲学をものの見方として捉え直すと反応が変わってくるのではないかと思ったからでもある。予想通り、答えが肯定に変わっていた。彼の考えの中にはすでに哲学的要素が見えるので、当然の答えだと思う。彼はさらにこう付け加えていた。アメリカの科学はとにかくがむしゃらにやるところがあり、哲学なんて全く考えていませんからね。
話好きのブルーノさんだが、アンリ・ジャンさんの予定が詰まっていたようで2時間を過ぎる前にお開きになった。別れ際にブルーノさんが、Peter Sloterdijk が今年出した本は科学についても書いているので是非読んで感想を聞かせてほしいと言っていた。調べると700ページにもなる。新たにドイツ語にも挑戦しなければならないのか、訳が出るまで待つのか。答えは明白のようだが、、。
"Du mußt dein Leben ändern: Über Religion, Artistik und Anthropotechnik" von Peter Sloterdijk
("You must change your life: about religion, artistry and human engineering")
以前にも周辺には来たことがあるが、久しぶりの解放感も伴い、かなり歩く。途中、大勢の人がデモをしていて、後ろから軍隊の車5-6台が付いていた。先ほどのレストランでもデモが見えたので、典型的なフランスの光景ですねとアンリ・ジョンさんに声をかけると、穏やかに微笑んでいた。
今日も思いがけない出会いのある、ヨーロッパの香りに溢れた一日になった。