詩人の庭にて Au Square des Poètes |
Léon Dierx (1838-1912)
J'ai voulu vivre sourd aux voix des multitudes,
Comme un aïeul couvert de silence et de nuit,
Et pareil aux sentiers qui vont aux solitudes,
Avoir des songes frais que nul desir ne suit.
沈黙と夜につつまれた長老のように
私は多くのひとの声に耳を傾けずに生きたかった
孤独に向かう小道のように
どんな望みも追いかけてこない瑞々しい夢を持ちたかった
Paul Valéry (1871-1945)
Patience, patience,
patience dans l'azur!
Chaque atome de silence
Est la chance d'un fruit mûr !
忍耐、忍耐
紺碧の中の忍耐!
一つひとつの沈黙の原子は
熟した果実をもたらすのだ!
Arthur Rimbaud (1854-1891)
Les tilleuls sentent bon dans les bons soir de juin !
L'air est parfois si doux, qu'on ferme le paupière ;
Le vent change de bruits - la ville n'est pas loin -
A des perfums de vigne et des parfums de bière...
(Roman)
六月の心地よい夕べ、菩提樹がよい香りを放つ
空気は時にやわらかく 瞼を閉じさせるほどだ
風がざわめく - 町は遠くない -
ブドウの匂いとビールの匂いを運んで
(ロマン)
(試訳、Paul Ailleurs)
昨日のもう一つの突然の贈り物は、入るかどうか迷った末に入った植物園 Jardin des serres d'Auteuil で待っていた。雨上がりで溢れかえる緑が瑞々しい。入ってしばらくすると芝生の端に小さな石碑があり、そこに目をやると上のヴァレリーの言葉が刻まれていた。見渡してみると、芝生の周りの至る所に小さな石が置かれている。そこにある詩の一節をゆっくり味わいながら一つひとつ摘み取って行った。時に大きな声を出しながら。20‐30にはなっただろうか。時間はどこかに消えてしまい、完全に何かに包まれていた。久しぶりの経験であった。
最初の3編を訳してみたが、難しい。詩の構造の問題がある。さらに背景に疎いこともある。そして、よく言われるように日本語のセンスが問題になるのだろう。言葉一つで雰囲気がガラッと変わる。その選択の組み合わせたるや無限に近いだろう。正統の訳などないことがわかる。私が訳すのを見ていると、詩人の心に迫るというより、自分がそこに見たい世界を目指して訳しているようだ。翻訳はそもそも可能なのだろうか。ただ、訳す作業により、原文がよりよく理解されるように感じられる。いつか聞いたジョージ・スタイナー (George Steiner; born April 23, 1929) の "Traduire, c'est comprendre." が蘇ってきた。