オステンドにて (I) |
まだ体が腫れぼったい感じがするが、抑えが利かなくなってしまった。このタイミングでなければならないと思ってしまったようだ。幸いにもタリス (Thalys) もホテルも取れたので数日間の小旅行を決行することにした。今のネット社会ではすべてがまさに "just a click away" である。こちらに来て初めての旅となる。
昨夜は出発1時間前に北駅に着く。年末のせいか、普段からそうなのか、人の流れが激しい。エスプレッソを飲みながら待っていると物乞いの人が次から次に来る。こちらの駅の雰囲気はなかなかよい。何台もの車両全体を一つ屋根の下に収めるようなその構造によるのだろうか、電車が非常に近く感じられる。蛍光灯ではなく白熱球の光が溢れているのも落ち着いた、しかしどこかに憂いを秘めた雰囲気を作っているのかもしれない。これから2時間45分のオステンドまでの旅になる。到着は9時過ぎとなっている。
車内は机を挟んで4人掛け。ほぼ満員だ。車内の放送はフランス語、ドイツ語、英語の三ヵ国語になっている。Wikiによるオステンドの紹介では、コスモポリタンな港町。「浜辺の女王」、あるいはイギリス人からは「最もイギリス的な町」と呼ばれているらしい。ブリュッセルに入ってからは、現地の言葉が加わり、車内放送は4ヵ国語になった。若い時からこういう世界に暮らしていたら、違う言葉を使う異なった世界を持った人間が常にそこにいることを肌で感じて育つことになるのだろう。日本では「外」や「異」は夢の世界にしか存在しないことになるが、、、。
ブリュッセルでかなりの人が降り、ゲントを過ぎるとほとんど人はいなくなった。オステンドで降りる前に車掌さんに町の名前をどのように発音するのか尋ねる。聞いた感じではオステンドに近い。ウィキにあったオーステンデとはどうしても聞こえなかったので(Oostendeのローマ字読みかもしれない)、これからもオステンドで通したい。
外に一歩踏み出すとすぐに海の香りが鼻についた。なぜかほんのりと懐かしさが襲う。駅を出てその姿を見る。光に浮き上がったその姿は趣がある。
Eglise des Saints Pierre et Paul
St. Peter und Paul Kirche
St. Peter & Paul Church
さらに町の方に目をやると白い教会が浮かび上がっている。近くに行くと少し黄色みを帯びて見える。潮の影響なのだろうか。修復中であった。それから夜の街を歩くが、人影は少ない。しばらくすると広場があり、その中央にはスケートリンクが設けられている。周りにいろいろな店が出ていた。若者がその店に集って盛り上がっていた。中には一緒にやらないかという仕草をしている者もいた。
それからホテルを探すがなかなか見つからない。中心部の地図で予想していた町の大きさよりも小さいようで行き過ぎたようだ。遅くなっても困るので途中で歩いてきた二人組に声をかけると男性は思いもかけない行動に出た。お相手の女性に先に行っていてと言って反対方向にあった私のホテルまで案内してくれたのだ。都会では考えられないことで気持ちのよい初日となった。都会を離れると、体と頭が一体になるような感覚を味わう。精神衛生にはこの感覚が大切なのだろう。特に、今の私のような生活をしている者にとっては。
ところでこちらに来る途中、ブリュッセルまでわずか1時間半しかかからないことに驚いていた。その気になれば簡単に来れるのである。これから週末をここで過ごすというのも面白いかもしれないなどと考えていた。そういう場所が至る所に転がっているのがヨーロッパなのだろう。
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今朝はパリとは違い、たっぷりと熟睡できたようで気分よく目が覚めた。プティデジュネに向かう。中央奥に2メートルくらいのクリスマスツリーが静かに置かれ、おそらくフレミッシュによるクリスマスソングがゆっくりと流れている。テーブルも食事の置かれているところも整然としていてしっとりとした気分になる。気持のよいプティデジュネを終え、受付でネットへの接続のことを聞く。連続2時間か、自由に使える1時間のカードがあり、いずれも7.5ユーロとのこと。ただカードは昨日すべてなくなったので、郵便配達の人が持ってくるまで待たなければならないようだ。何時になるかを聞いてみると、11時か12時かわからない、お茶の時間次第なのでと、カップを口にやる仕草をして答えてくれた。のんびりしていてよい。おそらく時間がかかるだろうと判断して、朝の散策に出ることにする。今日は曇りである。
2時間ほど海岸線を歩く。思ったほど寒くない。久しぶりに聞く波の音。何気なく繰り返されるその音は心を鎮める効果があるようだ。何ものにも囚われることなくただただ歩く。途中、ポール・デルボーの夜の鉄道と少女が出てくる絵を思わせる路面電車の線路の風景に出くわす。さらに歩くと日本庭園もある。冬の間は閉館しているようだ。
Jardin japonais
japanischer Garten
Japanese garden
町並みはアンソールの絵で予想したとおり、建物の色も全体の雰囲気もくすんでいる。建物は横にぎっしり詰まって建てられているが、中にデルフトの画家の初期の絵に出てくる建物を思わせるものが横から押されるように挟まれているのを見つける。
途中、インフォメーションセンターを見つけたので入ってみる。仕事としてやっているという感じではなく、町のことを知らせようという心が見えるような対応で気持ちがよい。写真に納まってもらうことにした。
そこでもらったパンフレットでジェームズ・アンソールが住んでいた家が何とホテルの裏にあることがわかる。今は美術館になっているようだが、今日はお休み。
さらに歩を進め駅の近くまで行く。大型の客船が停泊している。こういう景色はいろいろなことを想像させる。海辺に面したCafé Rubensで少し休んでから帰ってきた。
今、オステンドで不思議な空気を吸っている。