世界を複雑に考える |
午前中に用事を済ますための待ち時間があった。ここではお馴染みになってきたエドガール・モランさん(Edgar Morin, né à Paris le 8 juillet 1921)の最新刊 La Voie (「道」)を読む。これまでの考えをわかりやすくまとめた本のようだ。単純な二項対立(binarism)や善悪二元論(manichaeism)を退け、対象をコンテクストの中に入れ、陰影を付け、多元的に見るようにいつもの通り説いている。それから、現代の特徴でもある断片化された知をそのままにせず、相互の繋がりを探すような思考を勧めている。その時に基本になるのは、自らを振り返ること、自己検証、止むことのない自己を批判的に見る精神になる。ここで言う自己とは、個人のレベルだけではなく、個々人が関わる領域を意味している。21世紀の文盲は、読み書きができない人ではなく、学び、忘れ、再び学ぶことのできない人、さらに言えば、自己に向って振り返る目を持つことのできない人になるのだろうか。このように物事の複雑さを見ようとする姿勢が生れると、より豊かな世界が広がると言いたいようである。
遠くから臨む日本は、モランさんが退けなければならないとしたものに溢れているように見える。そのような環境では、ニュアンスを解さない単純な大人しか産み出せないかもしれない。豊かさを味わえないとしても何の不思議もない社会にしかならないだろう。未だに幼稚さの抜けない目からはそう見えてくる。それにしても、真の豊かさとは何を意味しているのか。そして、単純な見方を排するためには何をやらなければならないのか。これからを考える上では基本になりそうな問について、肩に力の入らない議論がなぜ広がらないのだろうか。そんな疑問が湧いていた午後のビブリオテーク。