最後の仕事終わる |
昨日はお話をするため大阪大学微生物病研究所に向かう。今回は所長の菊谷仁氏に声をかけていただいた。私のアメリカ時代からのお付き合いになるので、もう30年ほどになるだろうか。知らない間に齢を重ねているが、数字の実感がないためか全く驚かなくなっている。午前中から研究者との面談がセットされていて、審良静男、堀口安彦、木下タロウ、荒瀬尚というそれぞれの分野をリードする方々と1時間弱お話をする機会に恵まれ、これから参考になるだろう多くの示唆を得た。現場の科学者から直にお話を伺うことが少なくなっているので、このような時間は科学者が実験することと同質のものとして捉えるようになっている。丁度読書がそうであるように。お忙しい時間を割いていただいた皆さんには改めて感謝したい。
ところで、今回は科学者に向け哲学から見た科学をテーマに話してほしいとのことだった。イントロダクションで語られていた狙いは、現在の生命科学に元気のなさや停滞の兆しが潜んでいるかに見えるが、そのような時には大きな枠組みから科学を見直すことが重要ではないのかという認識があったようだ。私自身もその認識を共有するところがあり引き受けたが、現役の科学者がこのような話に興味を示すのかという不安を常に抱えている。しかし、蓋を開けてみると会場は立ち見も出るほどで、居眠りをする人もいなかったとのことで関心の高さに驚くことになった。さらに、お話の後30分ほど質問が相次ぎ、皆さんがこの話題に積極的に関わりながら考えていたことを裏付けるものとなった。部屋に戻り若手の研究者に印象を聞くと、開口一番 「めっちゃ面白かった」 というもの。これにはさらに驚かされた。日本に哲学は根付かないと言われるが、そこには遺伝子以外の大きな原因があるのではないか、という疑問が湧いていた。