スレイマン・バシル・ディアニュという哲学者 Souleymane Bachir Diagne, philosophe sénégalais |
シャルル・ド・ゴール空港で久しぶりに Le Point に手が伸びた。特集のフリー・メーソンとチュニジアで何が起こっているのかに興味が湧いたためだろう。ただ、最初に目が行くのは「思想」のコーナー。日本にいた時に条件付けされたようだ。そこにセネガル人でコスモポリタン、イスラムの哲学者にして論理学者、そして民主主義者で合理主義者と形容されているスレイマン・バシル・ディアニュさんのインタビューがあった。私も何冊か持っているフランス人哲学者のロジェール・ポル・ドゥロワさん(Roger-Pol Droit, né en 1949)がイントロを書いている。
ディアニュさんは、ENSでアルチュセール、デリダに哲学を学んだ後、ハーバードを経由してダカールの大学で哲学を教えると同時に大統領顧問を1993-9年まで務めている。そして、9.11の後にアメリカに渡り、2008年からはニューヨークのコロンビア大学でイスラムの哲学を教えている。ドゥロワさんのイントロだけではなく、ご本人の話にもここでのキーワードである「開く」という言葉が目に付く。例えば、狂信主義と精神を開くことの対比、あるいは古代ギリシャの伝統以外の遺産に開くこと、など。彼の中での哲学は、精神を開くことを通して一般に受け入れられていることに疑問を差し挟むことと定義できるだろう。イスラムの哲学者として何人かの名前が出てくるが、名前だけは馴染みになってきた人たちである。
イブン=ルシュド (Averroès; Muhammad ibn Rouchd, 1126 – 10 décembre 1198) この方については、以前に取り上げたことがある(2008年4月14日)。
イブン=スィーナー (Avicenne; ibn Sīnā, 7 août 980 – juin 1037) こちらは錬金術師のお話の中に名前だけ出ていた(2010年7月25日)。
ムハンマド・イクバール (Muhammad Iqbal, 9 novembre 1877 – 21 avril 1938) こちらの名前も世界哲学デーのプログラムで見ていた(2010年11月18日)
興味深く読んだのは、アメリカの大学生がイスラムの哲学に興味を示していることで、彼の講義は人気があるらしい。さらに、アメリカの大学教育についてこんなことを言っている。大学とは、知的好奇心の場であり、他者に対して開き、違いを受け入れる場でもある。1年目の講義は将来の専門に関係なく、すべての人が受けるようになっていて、2年目には哲学史が全員の必修になっているという。これは驚きであり、目を開かされた。そして、フランスで教育を受けた彼は、このシステムをヨーロッパやアフリカにも導入すべきだとしている。このような視点は私の考えとも重なるものである。
もう一つは、ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグさんに関するお話。9.11で破壊されたワールドトレードセンター跡地近くにモスクを含めたイスラム文化センター建設の話が持ち上がった時、猛烈な抗議が起こった。ディアニュさんは、イスラムに対する根深い不信感がそこにあること、さらに政治家はその世論を自らのために利用しがちであることを認めた上で、アメリカには素晴らしいところがあると言っている。それはブルームバーグ市長が世論の動向や自らの政治生命には目もくれず、プリンシプルに基づいてそのプロジェクトを受け入れたことである。そこにこそアメリカが拠って立つ原理原則があるとして、市長の態度を称賛している。
ブルームバーグさんに関しては、前ブログでも何度か触れている。
MIKE BLOOMBERG - 報道の自由 LA LIBERTE DE LA PRESS (2005-04-14)
マイケル・ブルームバーグ再び BLOOMBERG - UN GRAND PHILANTHROPE (2005-11-26)