トルストイ幻想 |
トルストイの中には外の世界のすべてのものが住んでいた。
つまり、彼自身が自然であった。
ニールス・イェルネがイディオタイプ・ネットワーク仮説で考えた人間を想起させる。
われわれの体の中には外界のすべてのイメージが内在しているという今や忘れられたあの考えを。
そしてトルストイは何よりも100篇以上を物した大作家であった。
その上、思索家、論争家、神秘主義者、同時に餓鬼であり、植物であり、野獣でもある。
矛盾に満ちた人間であった。
宗教的なところから離れた精神を持ちながら、神を待ち焦がれていた。
理性しか信じないにもかかわらず、神が語りかけてくれるのを待っていた。
それは彼自身のためではなく、人類のために。
1世紀前のこの時、アスターポヴォに至るまでに一体何があったのか。
彼は危険な言葉である「意味」に取り憑かれていた。
人生の意味を理解しようとして、それを探した。
大哲学者と対等に向かい合い、読み、書き、そして聖書に、仏教に、道教に分け入る。
なぜ生きるのか。
なぜ生きづつけるのか。
この作家はわれわれの後ろにいるのではなく、われわれの前にいて対している。
彼の死から100年を迎える今、その問を繰り返さなければならないだろう。
なぜ戦争があり、平和があり、死があり、愛があり、悲惨があるのか。
彼は老いるとともに答えの出ない問に取り憑かれて行った。
その過程が彼に偉大さと無限に広がる視点を与えた。
行動の中で真理を実現することを可能にした。
すべての束縛から解放された放浪生活に身を捧げる求道者。
人里離れた隠者の住まいを愛し、自然の聖なる場所を求めた。
彼の死はその道行きで倒れた巡礼者の死だったのだろうか。
慈しみ、瞑想し、祈りながら歩んだその果ての死だったのだろうか。
レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ Лев Никола́евич Толсто́й Léon Tolstoï
(1828年9月9日-1910年11月20日)
ヤースナヤ・ポリャーナのトルストイ(写真14枚)