春は哲学ではなく詩、そして Salon du livre 2010 へ |
先日の学校でのこと。前日に語り合ったチュニジア出身の彼が、教室に入るなりこちらに向かって、春はフィロゾフィーではなく、ポエジーですね、と話し掛けてきた。皆さん春の訪れを感じているようだ。その中でこのような言葉を聞けるのはやはり嬉しいものがある。
今日は午前中から研究所へ。必要な論文を揃える。それからセミナーに向かったが部屋がさっぱり開かない。暫くして通りかかった今日のホストに聞いてみると、中止になったという。講師はカリフォルニアの方で、スキーに行って骨折したとのこと。丁度、近くで30回目のサロン・デュ・リーヴルが始まったところだったので、詩集を求めて出掛けることにした。
入場料9ユーロ。学割は26歳以下の方だけ。結構混んでいる。ロシア、ハンガリー、ポーランド、トルコなどの外国の出版社もかなり見られたが、日本からの参加はなかったようだ。これまでは遠くから関係ないものとして見ていたので確実ではないが、日本が取り上げられたことがあったような気もしている。
3時間ほど歩き、詩集に目を通すもなかなかピンと来るものがない。手に入れたとしてもおそらく読まないのではないかと思わせるものばかり。そして最後になり、宇宙と詩に関するアンソロジーが目に入る。天体物理学者にして詩人でもあるジャン・ピエール・リュミネさんの手になる本を読んでいると、このテーマを科学と詩(芸術)の関係に収斂させて捉えていることがわかる。古代からのものが取り上げられているので読んでみることにした。
Les Poètes et l'Univers : Anthologie
Jean-Pierre Luminet (né en 1951)
それからその近くにあった2冊を手に入れた。一つは36歳で流星のように消えたトルコの詩人の詩集。もう一つはカナダの75歳の詩人レナード・コーエンさんのもの。お二人とも初めての方。
Va jusqu'où tu pourras
Orhan Veli (13 avril 1914 - 14 novembre 1950)
Le Livre du Désir
Leonard Cohen (né le 21 septembre 1934 à Montréal)
当初の予定も終え、少々疲れてきたので帰ろうとして出口に向かっている時、この景色が目に入ってきた。びっしり詰まったお客さんがゆっくりとした力強くも重たいフランス語を熱心に聞いている。確かに、その語りからは頭だけではない人生が感じられ、熱が伝わってくる。通りかかったのは1時間のセッションの半分を経過したところ。丁度その時、「ガストン・バシュラール」と「火の哲学」という言葉が聞こえたので、私も腰かけて聞くことにした。
話の主は、エドゥアール・グリッサンというマルチニク出身の作家、詩人。18歳で民族誌学を学ぶためにパリに渡る。Négritude (黒人性)という概念に共感を持ち、政治活動(フランスの植民地独立運動)なども積極的にしたようである。その結果、60年代前半にはドゴールから数年に及ぶ出国禁止を言い渡されている。1995年からはニューヨーク市立大学で教えていて、現在はニューヨーク、パリ、マルティニクで生活しているようだ。
Terre le feu l'eau et les vents (Editions Galaade ; 8 avril 2010)
話を聞いていると、4月に出ることになっている詩のアンソロジーについて語り合っている。聞こえてきた詩人や哲学者を挙げてみると、バシュラールに続いてパルメニデス、ウィリアム・フォークナー、モハメド・アリ、マルクス、ジークムント・フロイト、ラフカディオ・ハーン、ジャン・ピエール・ヴェルナン、ヘルデルリン、シュテファン・マラルメ、ジェームズ・ジョイス、チャーリー・チャップリンなどなど。それから名前は言わなかったが日本の詩人の話も出ていた。司会者によると、これらの詩や言葉が孤立してあるのではなく、一体となって壮大な音楽のように鳴り響くという。私もその音楽を聴いてみたいと思っている。
グリッサンさんは70代ではないかと思っていたが、もう81歳になる。お元気であった。疲れも少し取れたようで、その昔泊ったことのあるホテルの近くのカフェで、仕入れたばかりの詩集を読んでから帰ってきた。いずれもよく入ってくる。
帰って開けたメールで、来週に予定されていたディスカッションが都合で延期されることを知る。図らずも、束の間の春をエンジョイする条件が整ったようだ。